つはもの ― ツワモノ ―

つはもの

作品の特長

『つはもの ―ツワモノ―』は、1500年代前半の日本を文献に基づいて徹底的に時代考証し、映像化した作品。
ストーリーは、同時代に書かれた能『正尊』をベースに構成し、背景となる歴史や風俗を忠実に再現しました。
絵画史料や実物の工芸品を綿密に参照し、衣装は特注で制作。烏帽子の着用方法など、細部に至るまで考証を行っています。
限られた予算の中でも、できる限り当時の実像に迫るための工夫を重ねましたが、十分な予算があれば、調度品や建築、照明演出などにもさらに手を加えることで、さらに正確な歴史描写を行うことが可能です。
セリフには中世の口語史料を基にした言葉を用い、当時の話し言葉を映像として再現するという、初の試みにも挑戦しました。

あらすじ

「つはもの―ツワモノ―」
若きピアニスト・タクヤは、最愛の恋人を失い、生きる気力を失っていた。
ある日、彼の前にウマの仮面をかぶった謎の男が現れ、「時間を飛ばされるぞ」と告げる。その言葉通り、タクヤは突如として室町時代へとタイムスリップし、武士に捕らえられてしまう。
命の危機にさらされながら、彼は“本当に大切なもの”に気づいていく。
彼が見たのは、本物の室町時代か、それとも心が見せた幻か……。

シナリオ・監督・編集:Hiroaki
出演:飯川瑠夏、木場允視、亀田佳明、後田真欧、板倉光隆、大野香織、牧史弥

撮影協力:Pia Cuore

作品のポイント

再現度の高い特注衣装

文献や絵画史料をもとに、武士の装束である直垂(ひたたれ)を再現しています。
とくに素材にこだわり、武士が日常に着用していたとされる麻製の直垂を採用しました。多くの時代劇では化繊や綿を用いることが多く、歴史的実態とは異なる見た目になりがちですが、本作では当時の風合いや質感に近づけることを重視しています。
加えて、左右で色を変える「片身替り(かたみがわり)」と呼ばれる意匠も取り入れました。
これは当時実在したデザインであり、装束における多様性や武士たちの美意識を示す象徴的な表現として再現しています。
加えて、頭にかぶる「烏帽子(えぼし)」も本来の形を忠実に再現しました。烏帽子とは、武士や公家などが儀礼や日常で着用していた黒い布製の冠のようなもので、現代でいえば“かぶる装束の一部”です。外見は帽子のように見えますが、当時は髷(まげ)に内側の紐を結びつけることで頭に固定していました。髷の上にふわりと載るような独特の姿が本来の形です。しかし現代では髷を結っていないため、時代劇などでは帽子のように深くかぶってしまう場合が多く、当時の正しい見た目とは異なってしまいます。本作ではその構造と着用法を再現し、当時の姿により近づけました。

歴史背景を忠実に反映した調度品

当時の武家の邸宅は、現代の感覚からすると非常に薄暗く、自然光もわずかにしか入らない造りでした。そうした空間において、違い棚や押し板(現代でいう「床の間」)には、中国から渡来した陶磁器や書画などの美術品が飾られていました。このような高級の輸入美術品は「唐物(からもの)」と呼ばれていました。
本作ではそうした当時の美意識にも目を向け、唐物の飾り付けや、室内の薄暗さも含めて忠実に再現。画面の中では、暗がりの中にうっすらと浮かび上がるように映し出され、当時の空気感や静かな緊張感を表現しています。

当時の言葉の再現

本作では、室町時代の言語を可能な限り忠実に再現するため、登場人物の台詞は当時の文法と語彙に基づいて構成されています。助詞の使い方、語順、語彙選択まで歴史的資料をもとに緻密に組み立てており、いわゆる「なんとなく古風」な言葉ではなく、実際にその時代に使われていた言葉を再現しています。
たとえば、「むつかしや、問答は無益(むやく)じゃ」(=面倒だ、議論しても無駄だ)といった台詞は、現代語とは語彙や読み方も異なり、聞いただけで意味を理解するのは容易ではありません。
そのため本作では、意味が理解できるように、歴史セリフ(当時の言葉を再現したセリフ)の部分には現代語字幕を付けています。これにより、言葉の響きを耳に入れながら意味を把握することができるようになっています。これは、視聴者が“時代の言葉を浴びながら物語を追う”という、他にはない体験を可能にする試みです。
ただし、発音やアクセントについては、俳優の演技や感情表現を阻害しないよう、完全な再現は避けています。語頭のアクセントや音の抑揚といった要素まで忠実にすると、自然な演技が著しく難しくなるため、発声面では一定の調整を施しています。

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